自分だけでは論文なんて書けない

論文書きはそれなりにつらい

研究者を目指すうえで避けては通れない道、それは研究成果を投稿論文としてコンスタントに国際学術雑誌に発表することだ。研究者でない人からすれば「卒論」とか「修論」と大差ないように思えるかもしれないけれども、投稿論文に求められる文章のクオリティと科学的妥当性は卒論や修論のそれをはるかに上回る。Nature、Science、PNASなどの雑誌はいわずもがな、その道の専門家しか知らないようなマイナーな学術雑誌であったとしても、文章・科学の質が低いとみられるといなや「掲載不可(リジェクト)」の判定がなされる(その論文はもうその雑誌に載ることはない)。研究者のいう成果の公表とは、この数か月から数年かかる査読を通り抜け、学術雑誌に論文が掲載されたことをいう。査読のプロセスを経ていない卒論や修論は、その意味においては研究成果を発表したことにはならない。実際のところ、結果を得るまでのプロセスよりも、「得られた結果をどうわかりやすく、科学として適切に、そしてインパクトのある形でまとめるか」のところで頭を抱える研究者のほうが多いのではないのだろうか。ここのプロセスをいかに生産的にこなすかが研究者として生き残れるかどうかを左右するようにも思える(がんばれ自分)。ポスドクとして数年過ごしてから、それなりに自分の力で「読める文章」書けるようになったという気はしている。しかし、「読める文章を書ける!」と思えるようになるまでは、それなりの苦難があったように思う。

博士号取得後に直面する苦難

博士号を得た人間が最初に直面する苦難は、「先生にみてもらわないと自分は読める文章を書けない」という自己暗示をいかに解くかだろう。私は修士学生として大学院に入ったころ、論理的な文章を書く能力はほぼ皆無で、それはもうそのころの自分の書いたワードファイルを今開きなおしたら顔が真っ赤になりそう。当時、指導教員であった先生にはじめての論文を提出したところ、1ページ目にバツがつけられ、「まだ私の見るレベルではないですね」という痛烈な一言ともに帰ってきた。M1の冬、修士一年目で集めたデータをまとめた投稿(するつもりの)論文だった。そんなやり取りもありながら、なんとか次の年の春にはある国際学術誌への投稿までたどり着いたのだが、「そうか、自分は先生に見てもらわないとろくすっぽ文章を書けないのだ。。。」という強烈な印象を焼き付けられていた。この感覚は博士課程の終盤になってもなくなることはなく、果たして自分は自立した研究者とやっていけるのだろうかという疑念でいっぱいだった。しかし、ポスドクで別の研究室へと移った頃から、この自己暗示にもにた感覚は次第に瓦解していった。そのきっかけは「先生に見てもらわずに論文を投稿し、ちゃんとアクセプトされたこと」だったと思う(お金がなく英文校閲にもかけなかった)。まったくレベルの高い雑誌ではなかったのだが、それでも「なんだ、自分でもきちんと読める論文を書けるじゃないか」という自立心が生まれ、そのころから論文を書くことがより楽しくなったのを覚えている。思えば、学生の頃の私は「先生の顔色を窺うように」論文を書いていた気がするので、あれはまったくよくなかったと思う(私の意識の問題として)。つい先日、似たようなことをTwitterでつぶやいたところ、私のフォロワー数からすると多くの反応があった。同じことで悩んでいる(悩んでいた)人は多いということなんだろう。

どうコメントしたらよいのか

こう思う一方で、今、自分が曲がりなりにも学生の書いた文章をみる機会が増えてくるとともに、いったいどのようなコメントの仕方をしたらよいのか、というところで悩む。論理的な文章構造ではない、英語がひどい、、、(過去の自分を棚に上げて)正直な感想としてはこのような言葉が浮かんでくることも多い。そのようなオブラートに包まれていない言葉を直接浴びせた場合、上に述べたように、場合によっては当人の自立を妨げ、そして自尊心を傷つけかねない。一方で、現状での能力不足を自覚してもらうためにはあえて直接的に言った方がよいのではないか、とも思う。この拮抗する問題のバランスをとるためには、添削者と学生の間で、「せっかく面白い発見をしたのだから、添削を通じて文章の質を上げ、より多くの人に読んでもらえるようにしよう」という共通認識をもつことが大事ではなかろうか。添削者がこの認識を欠くと、必要以上に辛辣なコメントを書いたことに気づくことができず、単なる人格否定ともなりかねない「修飾語」をつけてしまう。添削を受ける側にしても、発見そのもの、時には人となりを否定されたと受け取りがちになるだろう(私がそうであったように)。こうなると、添削はただ自尊心を傷つけるだけの不毛な作業へと転じることを忘れてはならない、と強く思う(自戒を込めて)。

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