魚釣りをする二枚貝

ときに生物は、人の想像も及ばないような進化を遂げていることがある。河川や湖沼にすむ淡水二枚貝のイシガイ類(Unionoida)は、その一つだと思う。

イシガイ類は世界で約800種が知られており(Strayer 2008)、そのほとんどが寄生生態をもつ。親貝自体はよく見る普通の貝なのだが、その幼生は魚(両生類の場合も)に寄生する。雌貝の中で成熟した幼生は水中へ放出され、周囲の魚に寄生する。寄生期間の長さは種によって様々だが、数週間から数か月であることが多い。特定の魚種しか利用しない貝(スペシャリスト)もいれば、選り好みしない貝(ジェネラリスト)もいる。なぜ寄生生態が進化したのかについては諸説あるが、移動分散のためなのはほぼ間違いないであろう。二枚貝は移動能力が低いので、魚にくっつくことで遠くへ移動できるという寸法である(Terui et al. 2014, 2015)。こうした寄生生態をもっているというだけでも十分驚きである。

しかし、下の写真、ちょっとしょぼい小魚に見えると思うのだが。。。

これをすこし引いて写真をとるとこうなる。

そう、この二枚貝は、まさに「ルアー」を作り出したのである。この二枚貝はLampsilis cardiumという種で、オオクチバスなどの肉食魚を宿主とする二枚貝である。ルアーの陰には寄生する準備のできた幼生がたんまりと仕込まれている。このルアーをエサと勘違いしてオオクチバスが攻撃した瞬間、”ぶわっ”と幼生を放り出して寄生するのだ。二枚貝とは思えない精巧な擬態と寄生戦略である。

川に潜ると、こんな感じでディスプレイしている様子を写真に収めることができる。いずれもL.cardiumである。

擬態は小魚に限られたものではない。ザリガニ、巻貝、イトミミズ、はてには「釣り糸まで作り出し、その先でルアーを泳がせる」二枚貝までいる。こうした寄生戦略の多様性はUnio Galleryにまとめられており、これを見るだけで壮大な進化の歴史に思いを馳せてしまう。いったいなにが、この二枚貝の異様な進化を引き起こしたのだろうか。いまだ謎に包まれたままである。

イシガイ類の多様性はミシシッピ川流域が群を抜いており、200種を超える(Haag 2012)。そして、極端な擬態が観察されるのも(今のところ)この地域だけだ。日本にも17種のイシガイ類がいるが、疑似餌を進化させた種はいない。そして、同じ北アメリカでも、ミシシッピ川流域を離れると、途端にその多様性は著しく低下し、疑似餌を持つ種はいなくなる(この辺は不正確;少ないことは確か)。ざっくりとした仮説としては、最終氷河期に氷河におおわれなかったため、多様性が高いとされている(これは二枚貝に限った話ではないけれども)。しかし、それだけではまったくロマンがない。なにかもっと面白いことが起きているはずである。そう思ってアメリカに来て、もう半年がたつ。いくつか面白いことはありそうなことが分かってきたが、それを実証するためのアプローチが思いつかない。苦悩は続く。

※残念ながら、イシガイ類は世界的に減少傾向にあり、北アメリカでは70%の種が絶滅危惧種あるいは要注意種になっている。日本でも17種のうち13種が絶滅危惧種もしくは準絶滅危惧種である。

Strayer 2008 Freshwater mussel ecology: a multifactor approach to distribution and abundance. University of California Press

Haag 2012 North American Freshwater Mussels: Natural History, Ecology, and Conservation. Cambridge University Press

Terui et al. 2014 Dispersal of larvae of Margaritifera laevis by its host fish. Freshwater Science 33:112-123

Terui et al. 2015 A “parasite-tag” approach reveals long-distance dispersal of the riverine mussel Margaritifera laevis by its host fish. Hydrobiologia 760: 189-196

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